社会的ひきこもり 終わらない思春期 斎藤環
思春期・青年期における心理カウンセリングで有名な斎藤環氏が、ひきこもりに関する特徴や改善法を具体的にまとめた本だ。斎藤氏は200以上にもおよぶ事例を診てきたためか、ひきこもり事情が本書でかなり体系化されているように思う。まず以下に、おもなひきこもりの特徴を書きだしてみたい。
こうしてみると、ひきこもりになりやすい人にはいくつか特徴があるようだ。まず男性で、思春期から青年期にかけていちばん起こりやすいとみていい。さらに、ひきこもりの原因として、1.個人2.家庭3.社会という領域において齟齬が生じているのではないかとしている。*1
この3つの領域での齟齬が悪循環におちいり、個人や家庭だけでひきこもりが解決できないような「ひきこもりシステム」になってしまっている・・・というのが斎藤氏の主張しているところだ。
斎藤氏はこれを解決する方法のひとつとして、「他者の介入」をあげる。家族がまず心理療法士、精神科医や心理カウンセラーに相談することから始めようと言うのだ。斉藤氏によると、実際にひきこもりにおちいってから医療機関に相談するまでには、すでにひきこもり期間が長期になっているケースが多いことがたしかめられている。
ただ具体的な実践例があまり描かれていない。実際を元にしたフィクションが、ひとつあげられているだけだ。それでは家庭内暴力を振るうひきこもり男性に対してどのように暴力を改善したかについて述べられている。
おそらく斎藤環氏は、意図的に具体例をださなかったのだと思う。本書の目的はひきこもりを一気に解決する方法を示すことではなく、ひきこもりがすでに家庭の問題をこえて重要な社会問題になっていると、問題提起したかったのだろう。かつてひきこもりを体験した人間としては、ひきこもりについて自分事のように考えてしまう。
本書で学んだことのひとつに、ひきこもりは自分以外のタイプも存在していることを知ったことだ。たとえば私は家族に暴力を振るわなかった。暴力を振るうならば、本気で死のうとしただろう。家族に暴力を振るう気持ちはたしかにあったのだけど、それを実行するのはイヤだった。本書を読むかぎり、暴力はほとんど母親に向けられるようだ。こういう暴力を振るう人は、非常に強いマザーコンプレックスを抱えているのかもしれない。
しかし本書が出版されて10年近く経つのに、ひきこもりがおさまりそうな気配はない。むしろ日常に組み込まれているような奇妙な感覚をうける。これは私だけだろうか?今ひきこもりの何が学ばれて、どのように研究されて、どういう改善法を成立させているのか。時間があれば、もっとそういう方面からもながめてみたい。
- 作者: 斎藤環
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 1998/11/01
- メディア: 新書
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*1:社会的ひきこもりp97-99を参照。