さらば財務省!  高橋洋一

この「さらば財務省!」は大蔵省、その後財務省で勤務していた高橋洋一氏が郵政民営化改革の裏話や、元安倍政権時でどのように財務省に改革をつぶされたかについておもいっきりぶちまけた暴露本です。現在高橋氏は経済学者として有名な人物ですが、最近の言動などでイロモノ経済学者として扱われていることが多々ある人物になっていますが、本書はとても明快に小泉政権の改革や郵政民営化の裏側について語っています。


高橋氏は東大の数学科を卒業した後財務官として大蔵省で勤務したのですが、実は当時の大蔵省では毎年異端な人物をひとりかふたり入省させる慣習があったそうで、高橋氏はそのひとりとして登用されたようです。しかし大蔵省に入った初期からその後小泉政権で共に改革に従事する竹中平蔵氏と知り合いになっていたようで、アメリカでの最新経済学などの交流もお互いにあったようです。


高橋氏が活躍し始めたのは1997年の橋本龍太郎内閣が断行した行政改革の一環として、省庁再編とともに財政投融資(財投)改革した頃からです。特に財政のリスク管理にALM(Asset Liability Management=資産・負債の総合管理)を金融業務に持ち込んだことでしょう。それまでの大蔵省はその当時の普通の銀行のように借りて貸すといった業務が中心で、資産と負債に対して金利リスクを考慮した資金運用をしていませんでした。高橋氏と彼の極秘チームは大蔵省にALMを政治や日銀との確執がありながらも見事に導入することができ、大蔵省中興の祖とまでいわれるようになりました。
しかしこの頃ではすでに郵貯の危機が迫っていました。財投改革によって郵貯は大蔵省から切り離されましたが、その実態は郵貯側が高いリスクを背負い込むことに他ならず、いずれは民営化をしなければ経営責任が取れないことを小泉政権が発足する前から高橋氏は見抜いていました。


そして2001年に小泉政権が誕生した後、以前からの友人である大臣になった竹中氏より改革を手伝って欲しいという連絡がきました。問題は民間の不良債権処理だけではなく、政策金融改革など広い金融・財政改革が必要とされていながらも多くの役人や政治家の中に抵抗派がくすぶっていて、竹中氏も高橋氏も流言飛語の中非常に苦しめられました。お互いの役割は竹中氏が表側でがんばって討論し、裏側では高橋氏が改革の骨子を作り上げるという立場になりました。


しかし郵政民営化時は竹中氏も高橋氏も非常に慎重にことを進めました。郵政民営化準備室が設置されるものの役人の人数が多くてまともに民営化に向けて方針が立てれないと考えられて、極少人数が密室の中で民営化の方針を決めていきました。そして決まった方針を経済財政諮問会議の議論で最後は小泉総理が決断を下すということで決着となりました。


その後も特別会計から埋蔵金といわれる無駄金の発掘や、元安倍政権での公務員制度改革の挫折や年金問題改革が中途半端で終わったことなど、これが成功していればもっと今の日本の財政はマシになっていたなと思えます。これら解決できない問題をその後政権をとった民主党が行おうとしましたが、理想的すぎる政治は現実的すぎる実務に駆逐されて官僚がすっかり政治を手中に収めています。
現在の高橋氏はどうであれ、いまだに日本は本書で書かれている問題点から脱していないのです。


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