戦略の本質 戦史に学ぶ逆転のリーダーシップ  野中郁次郎 戸部良一 鎌田伸一 寺本義也 杉之尾宣夫 村井友秀

今回紹介する本は僕が以前読んだ「失敗の本質 日本軍の組織論的研究」の続編で、名前は「戦略の本質」とはどういうものかということをいくつかのケーススタディから導き出しつつ、そのエッセンスを抽出していきます。「失敗の本質」は日本人の管理者やリーダーの立場にいる人ならすべて読んでおいた方がいい名著で、現代日本の企業も旧日本軍とさして変わらない組織構造になっていることがかなり多いということが、企業の最前線で戦っている人ほど分かってもらえるかと思います。僕は管理者になったことはありませんが、旧日本軍の二等兵と同じ扱いをうけたことは何度かあります。その二等兵からみても多くの管理者の質というより構造が旧日本陸軍のような状態でした。


本書「戦略の本質」は日本軍が失敗した根本的な原因に戦略不在があったという分析が本書をかいた目的になったと言います。全体的な戦略をもたずに、局地的な戦いで勝利を得ても結局は徐々に敗北を重ねて最終的に敗戦に至ったのが太平洋戦争でした。しかし勝者となった側も始めは劣勢だったのに、最終的に逆転できた国も一方であります。なぜ劣勢を克服して勝利をつかむことができたのか。その過程を戦史に学びながら指導者のリーダーシップがいかに勝利に貢献したかについて描いていきます。


本書は戦略の本質とそれをもたらすリーダーシップを主に以下のようにまとめています。

安全保障における戦略
1.大戦略
2.軍事戦略
3.作戦戦略
4.戦術
5.技術


戦略の本質・・・10の命題
命題1.戦略は「弁証法」である
命題2.戦略は真の「目的」の明確化である
命題3.戦略は時間・空間・パワーの「場」の創造である
命題4.戦略は「人」である
命題5.戦略は「信頼」である
命題6.戦略は「言葉」(レトリック)である
命題7.戦略は「本質洞察」である
命題8.戦略は「社会的に」創造される
命題9.戦略は「義」(ジャスティス)である
命題10.戦略は「賢慮」である。


賢慮型リーダシップ・・・5つの能力の必要性
1.他者とコンテクストを共有して共通感覚を醸成する能力
2.コンテクスト(特殊)の特質を察知する能力
3.コンテクスト(特殊)を言語・概念(普遍)で再構成する能力
4.概念を公共善(判断基準)に向かってあらゆる手段を巧みに使って実現する能力
5.賢慮を育成する能力


これでは抽象的過ぎて役に立たないと感じる人や小難しくてよくわからないという人も多いのではないかと思います。これは僕の読み方ですが、本書における「戦略の本質」とは完全に固定化した概念で捉えては見落とすようなものではないでしょうか。あくまで原理・原則としての「戦略の本質」があって、それが刻々と変わるような「戦略」に対して重石としてあるだけで、絶対的な答えという「戦略」がない。そしてリーダーはそのたびに責任を背負いつつ判断を下さなければならないのです。逆転のリーダーシップとはその背負った責任の中にいても上記のように考える冷静さがあり、不確実性で偶発性のある環境と状況を考えて決断をしなければならないでしょう。


戦略の本質 (日経ビジネス人文庫)

戦略の本質 (日経ビジネス人文庫)