星の王子さま  サンテグジュペリ  池澤夏樹 訳

子どもの行動や創造力って大人からみると不可思議にみえることがよくあります。でもそれはすでに自分が大人の世界にすっかり馴染んでしまい、子どもの世界への共感を失っていることを意味しています。ある時、とある子供の王子様がある惑星からやってきたら大人はどのように応じるのでしょう。


星の王子さまにでてくる「僕」(大人の主人公)と「彼」(別の星から来た王子様)はサンテグジュペリの中にいるふたりをそのまま表しているように見えて、彼らを分けて読んでいくのが難しいというのが僕の感想です。「僕」であり「彼」でもあるふたりの会話には大切な言葉が本の中いっぱいに飛んでいて、とてもじゃないけれどあらすじを紹介するという方法では本書の良さは伝わらないでしょう。


なので今回は違う切り口で、「星の王子さま」を語ってみたいと思います。
僕が心に残った、というより衝撃を受けたフレーズから紹介してみるという方法です。

僕が「星の王子さま」でいちばん衝撃を受けたフレーズは、キツネが王子様にいった一言です。

「じゃ秘密を言うよ。簡単なことなんだ・・・ものは心で見る。肝心なことは目では見えない」 p.104

この文章を読んだ時に、身体に衝撃が走りました。なぜならこの言葉は今の僕に言えない。言えなくなってしまった。この瞬間、いかに僕は大人の世界で大人として振舞っているかが分かってしまった。でもそうしなければとてもではないが、今の現実世界で生きていけない。今はキビシイ。そればかりを感じると心が砂漠のように乾いてきて、だんだんいろんな物事に対して鈍感になっていく。そうなればきっと一人前の大人になれるだろう。実際に仕事に対して厳しいけれど、それ以外のことに関してはもうただ生きているだけの一人前な大人を何人も見てきた。仕事は真剣にするけど、それ以外はもう何もできないし何かを感じる心がすでに鈍感。これははっきりいってよくいる大人だ。


しかしサンテグジュペリは違う。彼は子供の頃の違和感を決して忘れず、また大人としても生きたのだ。訳者の池澤夏樹さんがあとがきで書かれていた「このモラルがいかにもフランス的な、人間そのものに根ざした、理屈を超えて心と心の共感を求めるような、そのためのスキルを教えるような、ものなのだ。」p.139。この文章にフランス人に根ざした文化や文学の違いと、心と心が共感を求めるスキルを教えるというのは、日本ではほとんどありえないことに気が付きました。日本で必要な心と心が共感を求めるスキルは、空気や雰囲気を感じ取れるかどうかになっています。そこには共感を教える、教えあうという土壌がない。この「星の王子さま」のような「僕」と「彼」の関係は、ほとんどの日本人にとっては自分の中にすら作ることができないのではないか。


子どものような疑問をもつ心と、現実を見た大人の心が共感しあって、そのスキルをまた他人と共感しあう・・・。この詩のような、星星と砂漠を描いた絵本のような「僕」と「彼」の物語は、フランスのエッセンスを詰め込んだ美しさがあります。


星の王子さま (集英社文庫)

星の王子さま (集英社文庫)