老人と海  アーネスト・ヘミングウェイ  福田恆存訳

サンチャゴというひとりの老漁師が、メキシコ湾の隣接する小さな漁港に住んでいる。今では冴えない漁師の彼だが、近くに住む少年と共に平和な漁をしながら過ごしている。


ある早朝サンチャゴはフッと遠出の漁をしようと決めた。しかしここから人生において二度とないような漁が始まる。すでに87日も不漁がつづいていた後に、大物の魚が食いついてきたのだ。大物どころか超大物といった手応えで、こちらに引きずるどころか、反対に舟から落ちかねない勢いで引っ張る。サンチャゴは左手を不自由にしながら巨大魚と戦うが、相手も命をかけて抵抗する。それはまさに戦場での死闘といった表現が似合う情景だ。


話のあらすじはここまでにしておきますが、この「老人と海」はただ戦いを描いているわけではなく、人間が真剣に戦いに挑んだ時の行動、精神が見事に表現されています。戦いに勝つために必死になってできることをすること、敵に対して憎しみを抱くのではなく親しみを抱いていくこと、それでも俺は必ず勝つぞと思うこと。そんな感情をひとりごとで自分自身を相対化しつつ、必死の勝負に挑みます。


そしてこの戦いの後は何を得ることができたのでしょうか。それとも何も得ることはなかったのでしょうか。僕は、サンチャゴが得られたのはいつもどおりの日常だったのだと思います。


老人と海 (新潮文庫)

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