狂気と犯罪  芹沢一也

「狂人」・・・この言葉には人を不安にさせる何かを感じます。その「狂人」が起こす犯罪はしばしばセンセーショナルに取り上げられ、社会問題になります。しかし本当に「狂人」だけが犯罪を犯し、また彼らを隔離することが社会にとって良いことなのでしょうか。


本書は「狂人」が江戸時代から明治の始めを通し、現代に至るまでどのように扱われてきたかをふんだんな資料のもと解説します。江戸時代には狂人といえども犯罪を犯せば普通の咎人とほとんど変わりなく処罰されていました。それが明治の始めに近代化の一環として、狂人を表に出させないように警察権力の介入によって隔離されました。しかもそれは公立病院による治療のための隔離ではなく、多くは単純な私宅監理だったのです。その実態は実に悲惨で、ほとんど隔離した動物扱いでした。


そんな中呉秀三という人物が精神医学の改善に立ち上がります。彼と精神医学を学んだ仲間は、国公立の精神病院を設立しようとがんばります。そのために精神医学を学んだ人間が、司法の場において犯罪を犯した「狂人」を精神鑑定することを始めました。しかしここで奇妙なねじれが起こります。「狂人」をあまりにも特別扱いにしすぎて、「法を犯した精神障害者」は刑事責任を免除されるという結果を生み出したのです。


この後は本書を読んでなぜ日本では精神病院の数が西洋諸国と比べて異常に多いのか知ってほしいのですが、2つだけその答えを書いておきたいと思います。ひとつ目は人道主義の精神を満足させてくれたこと。ふたつ目は社会の治安という目的にかなったことです。これはすでに戦前に用意されていて、この流れがほぼそのまま戦後の精神病院ブームにつながったのです。


狂気と犯罪 (講談社+α新書)

狂気と犯罪 (講談社+α新書)