原発・正力・CIA 有馬哲夫

正力松太郎は元警察官僚で、読売新聞社を今のように仕立てた傑物だ。そしてそういう地位にいたのだから、必ずしもきれいな体だったわけではない。


陰謀とはやっかいなもので、当時からいろんなうわさは出まわるのだけれども、だれもそれを確かだと証明できない。本書は、著者である有馬哲夫氏が、アメリカで公開されたCIA文章からCIAと正力松太郎の関係を洗い出す。そこに描かれていたのは、従来とは違う関係だったのだ。


なぜ正力が原子力導入に異常に精力をかたむけたのか。かれは総理大臣になりたかったのだ。今まで一度しか議員をつとめたことがないのに、普通なら総理大臣なんて考えられない。だが、それを実行するところに正力という清濁併せ呑んだ怪物の姿が見えてくる。


そしてそのための原子力だったのだが、その前に正力はマイクロ波通信網建設の野望をもっていた。マイクロ波をつかった放送と通信の独占を考えていたのだ。日テレこと「日本テレビ放送網株式会社」は、その名残でもある。だが結局これは吉田茂が反対にまわったこともあり、たち消えになった。


そんな中、政局が軋ませながら動いていく。吉田茂が「バカヤロー解散」した後の政局は、非常に不安定なものとなっていたのだ。自由党のライバルである民主党議席をのばし、さらに社会党共産党もしっかりとした勢力になっていた。ここから自民党民主党の合併という話につながる。


しかし民主党は、吉田茂のやり方に不満をもった人たちが結成した党でもあった。吉田は鳩山一郎に、公職追放から復帰した後はバトンをわたすと約束していた。ところが追放から戻ってきてもそういうそぶりはない。こういうことが積み重なって分かれるにいたったのだけど、保守合同話が現実味を帯びてくるにしたがってそういうことも言ってられない。そこに、可能性が低いながらも、正力が総理になる目があった。


もしここで両党から一致した総理を出せなければ、正力に総理になってもらおうという話があった。しかし、おそらくこれは正力からお金を引き出すための方便だったように思う。初当選したばかりの議員(正力)に総理になってもらおうなど、結局本職の政治家たちは考えはしても、実行しなかっただろう。しかし正力は真剣に総理になろうとした。いや、なりたかったのだ。


当時は第五福竜丸事件のおかげで、日本国民は原子力に対して非常にナーバスになっていた。正力は読売メディアを使って原子力キャンペーンをおこない、これを成功させていく。このプロパガンダや、アメリカから原子力技術を引き出すためにCIAが関わっていた。

その具体的なやりとりは、本書を読んでたしかめてほしい。やはり陰謀は、素人などにはカンタンにわかるものじゃないというのが、はっきりわかるだろう。しかし日本にもこのようにしっかりした記録として文章が残らないのだろうか。古事記日本書紀より古い文章を捨ててしまった国には、あいまいでしか物事が残っていかないのかもしれない。

原発・正力・CIA: 機密文書で読む昭和裏面史 (新潮新書)

原発・正力・CIA: 機密文書で読む昭和裏面史 (新潮新書)