マンガ心理学入門  ナイジェル・C・ベンソン  清水佳苗/大前泰彦 訳   マンガサイコセラピー入門  ナイジェル・C・ベンソン  清水佳苗/大前泰彦 訳  小林司 監訳

今回は心理学とサイコセラピーの入門書というこのブログではあまり取り上げなかった分野を紹介します。著者も訳者もほとんど同じであり、また同じ心理学の分野について言及しているように見えますが、実はお互いに補強し合うような内容になっているのです。
最初の「マンガ心理学入門」は純粋な心理学の発展について書いているのが特徴で、この本では精神障害だけでなく人間のありとあらゆる心理や行動の研究が心理学の目的として扱っています。
次の「マンガサイコセラピー入門」はサイコセラピスト(心理療法家)が行う心理療法を中心に紹介しており、最初の本では取り扱っていなかったサイコセラピーの学派や方法など主流なやり方から怪しげなセラピーまで載せているなかなかおもしろい本です。
ただ注意して欲しいのは精神科医は医師資格を持つ医者として扱われるためどちらの本にもほとんど登場しません。


「マンガ心理学入門」には心理学の歴史とその定義、さらに心理学の発展がだれによって、どのように証明されたかについてマンガ形式で綴られています。今回は心理学の誕生と、心理学とは何かということかについて重点を置いて紹介しておきます。

まず心理学の研究方法は大きく分けて6つ存在します。1.精神力動的、2.行動主義的、3.認知(ゲシュタルトを含む)的、4.人間性心理学的、5.生物心理学的、6.社会文化的観点などがあります。ここからさらに、(1)発達心理学、(2)社会心理学、(3)比較心理学、(4)個人差心理学、(5)認知心理学、(6)生物心理学、(7)健康心理学、そして(8)組織心理学が典型的な区分としてあげられています。
以上はとても教科書的ですが、現代心理学の区分ではこのようになっているようです。この中で心理学といえばフロイトと思いつく人は精神力動的手法について考えてるとして見られますが、精神力動的手法は現代ではひとつの分野に過ぎなくなっています(しかも科学的手法をとりいれて社会科学の顔をする現代では下り坂です)。
心理学が誕生したのは1879年ヴィルヘルム・ヴント(1832〜1920)が人間行動を研究するために初めての公開実験場を開いた時からです。ヴントは自らの実験を「実験心理学」と呼び、内観(事故の精神状態の観察)を用いて厳しいルールのもとに自己の精神状態を学生たちに観察させました。

(1)自己の精神状態を観察するものは、その観察をいつ開始するかを決定できること。
(2)観察をする者は、レディネス(準備ができているもの)または注意を張りつめた状態であること。
(3)観察を数回繰り返せること。
(4)実験の条件は、刺激を巧みにコントロールするという点に関して、変更可能なこと。  p.33

彼の研究したテーマは未だにさまざまな分野で研究が続いていますが、実験結果やその他理論はあまりにも主観的すぎるとして使われなくなりました。ヴント以降も多くの議論や発見があり、進化論に統計や脳研究を取り込んで現代心理学が成り立っているのです。


マンガ 心理学入門―現代心理学の全体像が見える (ブルーバックス)

マンガ 心理学入門―現代心理学の全体像が見える (ブルーバックス)

「マンガ心理学入門」 目次
1:心理学とは何か?
2:方法論
3:心理学の誕生
4:心理学以前
5:さまざまな観点
  1.精神力動的観点
  2.行動主義的観点
  3.認知的観点
  4.人間性心理学的観点
  5.生物心理学的観点
  6.社会的および文化的観点
6:発達心理学
7:社会心理学
8:比較心理学
9:個人差心理学
10:今日の心理学



「マンガサイコセラピー入門」では人間の心理・行動・認識・生物・社会的な研究を社会科学的に徹底に追求した心理学とは少し違って、心理学から解明した人間の心理を応用してどのように心理療法を行うことができるかについて焦点があたります。日本語でサイコセラピーという言葉にはなんとなく胡散臭いものを感じる人もおられると思いますが(僕もそうだった)、どうやらそうでもなさそうです。まず本書はサイコセラピーとカウンセリングという同じような言葉の区別から始めます。サイコセラピストは積極的にクライエントを援助したり提案したり処方したりする人々といい、カウンセラーはなるべく指示を与えずに、さらに判断も下さずにクライエントに自分で決めさせる傾向のある人々と定義します。現実は反対の肩書きを名乗っている人もいるようですが、その場合この本を読んでタイプを分けてください(笑)。
さてサイコセラピーの具体的な方法は主に7つを紹介します。
1:身体的または医学的治療(ソマティック・セラピー)は、文字通り「身体面の治療」で、主に薬を使って治療する。
2:精神力動療法は、精神分析に基づいて行われる心理療法
3:行動療法は、学習理論をもとにする。
4:認知療法は、考え方を変えることによって治療する。
5:人間性心理学的療法自分自身の目標を達成できるようにクライエントを援助する。
6:集団療法(グループ・セラピー)は、似た状況にある人たちを集めて、たがいに援助させ合うことで治療する。
7:補足的(または代替)療法(コンプリメンタリー・セラピー)は、広範なやり方を含む。

このようにたくさんのサイコセラピーがあって何が何やらわからないと思う方は当然です。中でも7番目の代替療法はいまいち信用出来ないやり方も多く、それで本当に効果があるのか疑問が残ります。サイコセラピストやカウンセラーを探すときに重要なのは、どのような経歴や資格があり、住所や電話番号など連絡先が明らかな人物です。彼らが団体に所属している場合、その団体は一般の人が利用できる登録名簿をもっているのか確認する必要があるかもしれません。しかしどんなに素晴らしい経歴や資格があったとしても肌に合わないセラピストは必ず存在するでしょう。その時はハッキリと違うセラピストやサイコセラピーを変えることをおすすめします。自分にあったセラピーやセラピストに出会うことがなによりも大切なことだと考えます。セラピストが必要な方に必要な人物と出会えることを。


マンガ サイコセラピー入門―心理療法の全体像が見える (ブルーバックス)

マンガ サイコセラピー入門―心理療法の全体像が見える (ブルーバックス)

「マンガサイコセラピー入門」 目次
1:人が古くから抱える問題
2:サイコセラピーの主な種類
3:サイコセラピスト(心理療法家)って、どんな人?
4:人には、なぜサイコセラピーが必要なのか?
5:サイコセラピーの当面の目標
6:サイコセラピーの歴史のあらまし
7:今日のサイコセラピー
  1.身体的または医学的治療(ソマティック・セラピー)
  2.精神力動療法
  3.行動療法
  4.認知療法
  5.人間性心理学的療法
  6.集団療法(グループ・セラピー)
  7.補足的(または代替)療法
8:セラピーの評価