マンガ脳科学入門  アングス・ゲラトゥリ  小林司 訳

脳が人間にとってすごく大事な機能を占めていることは現代ではほとんどの人が知る事実ですが、実は最近までその重要性が認識されていませんでした。現代は反対に脳についての研究が神話になって世間に流れ、どこまでが真実がわからない状態にまでなっています。本書はそんな脳科学についてマンガで表現しながらも、かなり奥深く脳についての研究の結論を描いています(もちろん現代までの研究です)。それゆえにマンガながら多くの情報が詰まっていて、ぶっちゃけていえば今まで脳について知識のない人が読むと途中で遭難してしまうかも知れません。まったく知識のない人はまず、竹内薫脳をめぐる冒険」、竹内薫・茂木真一郎「脳のからくり (新潮文庫)」あたりから入って行く事をオススメします。



人間の脳は奥に行くほど原始的で無意識に活動を行なっている部分に関係しています。そして脳が上層にいけばいくほど人間の意識につながる部分につながっていくようです。脳の奥から順番に書きだしてみましょう。
・脊髄(脳から体に神経反射を伝えたり、単純な反射を調整する)
・延髄(心拍や呼吸を司る)
・橋(大脳皮質と小脳との間の情報を伝達する)
・小脳(緻密な筋肉運動や、バランスをとる)
網様体活性化系(眠りと目覚めを司る)
・中脳(運動を調節する。鳥類や下等動物では脳そのものになる)
・脳下垂体(おもに内分泌線を支配する)
視床下部(体温、食べること、睡眠、内分泌系を調整する)
視床(感覚の情報を大脳皮質に伝える)
脳梁(左右2つの大脳皮質間の情報を交換する)
・大脳皮質(思考や感覚、自発的な動きを司る)   p46-48より
このように一番奥の脊髄からの情報を処理するために橋から小脳と一番上層の大脳皮質に情報を送るなど、人間の脳にはさまざまな伝達経路が存在しています。


それぞれの詳しいことは本書を読んでもらうことにして、ここでは大脳皮質にこだわって書き留めておきます。まず大脳皮質には、前頭葉頭頂葉後頭葉・側頭葉の4つに分かれており、それぞれ人間が普段活動していると認識している事に大きく関わっています。
1.前頭葉 ー 運動(制御)、知的活動、創造性、言語産出、意志、判断、思考、情報の統合、行動の計画と実行
2.頭頂葉 ー 身体感覚、身体イメージ、体性感覚(触覚、皮膚感覚)、環境認識、注意
3.後頭葉 ー 視覚
4.側頭葉 − 聴覚、内的表象の処理(深部にある海馬と扁桃核は、学習、記憶、言語理解、情動)

これら大脳皮質は私たちが考えていること、感じていること、記憶していること、見ていることなどをバラバラに担当しています。
実な最近の脳科学は現代心理学と大きく関わっていて、この大脳皮質における活動が人間の心を生み出していると考えている心理学者も多いようです。自分の考えていることを意識することは自分の「心の中」を意識することといえるでしょう。これは最近、作動記憶(ワーキングメモリー)として研究されています。このワーキングメモリーで一番重要なのは、さまざまな情報を決定する機能を持つ中央執行部で、さらに視覚空間系と聴覚系がこれに従属します。そしてワーキングメモリーの作業する機能は大脳皮質全体でおこなわれるのですが、とりわけ第46野と呼ばれる部分はすべての仕事に関係している中央執行部とみなされています。しかしこの第46野は考えをまとめたり、仕事の切り替えるときに主に活動しているのですが、意識の内容となるとどちらの大脳半球(つまり左脳か右脳か)のどの領域がそのときの仕事に関係しているかによってきまるようなので、必ずしも第46野はすべてに関わっていても完全なコントロールをしているというわけではないようです。

このように大脳皮質の一部を書いただけでこのとおりですので、脳のことをすべて知ろうとすると大変な努力が必要になるでしょう。正直にいって僕は本書を完全に読めたという気がしていませんが、とりあえず人間が人間らしいと考えていることを大脳がしているとを知っただけで満足しておきます。


マンガ脳科学入門―心はどこにある? (ブルーバックス)

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