255書評-隷属への道  F・A・ハイエク  西山千明 訳

これまでハイエクに関する興味について取り上げ続けてきましたが、最初に申したようにハイエクは僕に衝撃を与えた人物なのです。そして最初に読んだハイエクはおそらく彼の著書で一番有名な「隷属への道」になります。1944年に出版された本書は様々な影響を与え、ハイエクに自由と伝統を守る印象を世間に与えただけでなく、長いあいだ政府による社会改革で国を良くしようとする人々には疎まれる結果になりました。本書が書かれた時代は社会への積極的な改善がおこなわれ始め、イギリスでは1945年には労働党が第一党になって、クレメント・アトリーが首相となる時代が到来しました。
そのような環境でハイエクは経学学者というよりも自由主義者として認知されることが多いだけでなく、自由放任主義者とも見られることがありますが、それは間違いでむしろ自由放任主義者を批判して彼らが経済や社会の変化に対応せずに既得権益になったことを告発します。
それでは3年前の僕は読書メーターでどのように語っていたのでしょう。

■コメント 2009-11-24
おそらく、ハイエクという人の思想のエッセンスをほとんど詰め込んだ本。本書が出版された当時は、政治目的のあるパンフレットとして、晩年になるまで、著者は本書から目をそらしていたようだ。だが、彼の自由に対する明晰な分析と、自由の持つ優位性はすでにこの本に描かれている。社会学や経済学には、未だにマルクスの見識だけで分析をしている人が多い。マルクスを読んだのであれば、ぜひハイエクにも挑戦してほしい。


・・・今から読むとドン引きレベルなほどなにもわかっていないコメントです。ハイエクマルクスもわかっていないのにわかっているような文章を書いているのがまるわかりです。
今からハイエクに対する評価は微妙に違ってきています。ハイエクが厳しく批判したのは「中央集権による計画」で、そのような計画は結果としてひどい環境を人々に与えることにはまったく同意します。問題は私有財産についてのルールがハイエクほど信じられなくなっていることです。僕は個人を中心に考えていますので、私有財産がなければ大変なことになるところはハイエクと一致しますが、私有財産だけでない共有財産ともいうべき存在もなければ人間が個人であり、なおかつ社会に参加する人としての自分が保てないのではないかという風になってきました。この共有財産には単純にお金だけではなく、共同で行う仕事であったりあるいは遊びであったりする事も財産になり得るのではないでしょうか。それらの自由を保証するのが「法による支配」であれば、未だに僕はハイエクの手のひらに踊っていることになりますが、それについても同意すると同時に違和感も感じている段階です。
目を閉じている人間は物事を知ることはありませんが、目を開いた人間はそれぞれの道を歩んでいくことを知っています。それがたとえ間違っている、もしくは禁忌とされているようなことであっても。しかしずっと目を開き続ける人間はまどろみの中で様々な夢をみながらも自らの道をみているのではないか。
まだまだ自分の道は遠そうです。


隷属への道 ハイエク全集 I-別巻 【新装版】

隷属への道 ハイエク全集 I-別巻 【新装版】


P.S. 本書「隷属への道」には一谷藤一郎訳と西山千明訳のふたつがありますが、モンペルランソサエティの会長も務めた西山氏の訳が読みやすく、また確実です。
P.S.2 東浩紀も実はアマゾンでオススメの20冊として紹介しています。しかし訳は西山氏がいいでしょう。


「隷属への道」 目次

第一章 見捨てられた道

第二章 偉大なユートピア

第三章 個人主義と集産主義

第四章 計画の「不可避性」

第五章 計画化と民主主義

第六章 計画化と「法の支配」

第七章 経済統制と全体主義

第八章 誰が、誰を?

第九章 保障と自由

第十章 なぜ最悪な者が指導者となるのか

第十一章 真実の終わり

第十二章 ナチズムの基礎としての社会主義

第十三章 われわれの中の全体主義

第十四章 物質的条件と道徳的理想

第十五章 国際秩序の今後の展望