夢と夢解釈  ジークムント・フロイト 著  金森誠也 訳

さて今回僕はフロイト思想の入門として本書「夢と夢解釈」を読んでみました。フロイトはあまりに有名な心理学者であり、多くの人が名前ぐらいは聞いたことあると答えることでしょう。しかし実際にフロイトの考えたことを知っている人はどれだけになるでしょうか。以前僕はフロイトの生涯を描いた伝記を読んでいて、彼の人生がどのような感じだったのかについては土地勘があると思っています。しかしフロイトの思想についてはかなりの偏見と又聞き程度の知識しかなく、そこで今回もう少しフロイトに接近しようとしました。

本書はいくつか別で書かれた文章を集めたアンソロジーであり、本書でしかない未翻訳も含んでいます。まず結論から先に言うと、これはどうにも判定することが難しい本だと思いました。特に中盤と後半の夢の連想と性の結びつけ方に神話をつかった分析には、壮大なこじつけだと感じる箇所が多いです。それらについて僕はどうも言うことはありません。というより思いつきません。様々な逸話と性の関連性を説く文章を読んでいて、うん、そうですかという気持ちにしかなりませんでした。興味深くはあるんですが、それ以上のなにかは感じませんでした。


しかし本書の最初に書かれた「夢について」には現代でも通じるような思想が埋まっているように感じました。その埋まった宝を目指して今回書評を書いていきます。「夢と夢解釈」現代性について指摘しつつ、ここではまずフロイトの夢に対する解釈はどういうものなのかを紹介していきます。長文になりますが本書から以下を引用します。

・・・私は2つのことを指摘しておきたい。その1つは、夢の内容は私が夢の代用をしていると説明したもろもろの思想よりはるかに短いこと、もう1つは、夢の分析に夢を見る前の晩の重要でない出来事が夢を発生させる刺激であることが発見されたことである。・・・・・・私は私が想起した夢と分析によって発掘させた資料とを対立させ、前者を顕現夢の内容、そして後者を一応さらに細分することなく潜在している夢の思想命名する。今や私は、従来明確に表現されなかった次の2つの新しい問題に直面している。
(1)私に想起された既知の顕現夢の内容に潜在している夢の内容を移行させた精神の動きはどんなものであるか?
(2)このような移動を要求した動機、あるいは複数の動機はどんなものであろうか?この2つの問題である。
潜在している夢の内容から、顕現夢の内容への変化の動きを、私は夢の作業と名付ける。そしてそれとは逆の変化を遂行する、この夢の作業と逆コースをたどる作業を、私はすでに精神分析の作業として知っている。   p29-31


ここでは夢の作業とそれを精神分析する方法について語っています。フロイトは夢を顕現夢と潜在夢という2つに分け、その夢がどのように精神の動きや動機に関わってくるかについて疑問を発します。
そして複雑な構造を持つ夢の分析を多様な精神的材料と、断片的ながら多様な論理構造から導き出そうとします。
そうした夢のなかでは、普段起きている自身の性格が一致しない。

それでもひとたび夢が発生したとなると、この精神的材料は圧迫され、それによってとてつもない圧縮が行われる。また精神的材料は、内的な分裂といわば新たな表面をつくりあげる移動に直面する。さらにそれは、状況形成にもっとも役に立つ構成要素を通じて選び出されたもろもろの作用を受けることになる。これらの材料の発生を顧慮した上で、このような動きを「退行」という名を得るに値しよう。 p.57-58

この夢の作業で破壊されたつながりを回復する手段が精神分析だとフロイトは宣言します。


さらにフロイトは第一の法廷と第二の法廷という表現をつかって、意識と無意識について考えを向けます。第一の法廷の活動は無意識で、第二の法廷ではそこで(つまり第二の法廷)作られた思想を意識の中に留めることができ、第一の法廷の活動(無意識)は第二の法廷の境界で検閲が行われると仮定します。この境界で起きる抑圧ー検閲の緩和ー妥協の形成が夢と同様の方式をとる他の多くの心の病の症状の発生にとっても根本となる図式になるのではないか・・・。

・・・・・・われわれが夢の作業について学んだような圧縮、移動それに表面的なもろもろの連想の要求が、夢の場合にも心の病の場合にも観察される。   p.83


僕がここでフロイトの夢と意識の解釈の中から現代性を感じるのは、夢と意識が圧縮されて、どこかに移動され、さらに表面的な連想の要求が、夢や心の病どころかユニバースやコスモロジーにつながっているのではないかということです。それを言ってしまうとユング心理学と思われてしまうかもしれませんが、それとも違いもっと現代の問題に掘り下げることができる可能性をもっているように見えるのです。自分でもまだそれがどのようなものか分かりませんが、とにかくフロイトは違う方面から彼の思想を見ていく必要があるのではないでしょうか。


夢と夢解釈 (講談社学術文庫)

夢と夢解釈 (講談社学術文庫)