「ニート」って言うな! 本田由紀 内藤朝雄 後藤和智

本書こと[「ニート」って言うな!]は実はすでに二年前に読んでいて、「ニート」を取りまく問題について何かしら語ろうとして挫折していたのですが、この挫折が今までも僕を縛り付けていると感じていたので、今回再読することで僕の「ニート」問題にある程度決着をつけたいと思います。この2年間の間に僕も変わりましたが、世間もニート問題に対してだいぶ変わりました。現在はニートに対する話題をテレビで聞くことはなく、主に新卒に対する問題や企業が正社員で雇わないことに世間の目が注目しています。しかし狭すぎる正社員への道が結局不安定なフリーター、契約社員を増加させる結果になっていて、給料や社会保険など正社員とその他で大きく違いができています。その中でニートは社会への参加に更なる壁ができてしまっているといっていいでしょう。


しかし本書が出版されたのは2006年ですが、ニート問題は今でもそれほど変わっているとは思えません。本書は三人の著者がそれぞれの立場や考え方からニート問題について語っているスタイルをとっているので、それぞれニートに対する視点も違いますし細かな考え方も違います。だけど著者たちがニート問題に対して一貫しているのは、世間が単純にイメージしている「像」としてのニートと現実のニートの姿はぜんぜん違うということについて一致しているということです。


著者の一人である本田氏はニートと呼ばれる人にも働きたくない人と働きたい人が存在していて、これらの人たちをまとめてニートと呼ぶことに批判します。詳しく説明すると、仕事に就きたくない「非希望型」はほとんど増えておらず、増えているのは仕事に就きたいが今仕事を探していない「非求職型」なのです。そしてこの「非求職型」の多くはフリーターや若年失業者であることを指摘し、世間でニートと呼ばれる人たちは様々な理由でニートという状態になっていることを暴き、彼らをニートだと社会が一律にレッテルを貼り付けることは間違っていると言います。


二人目の著者である内藤氏はその社会において憎悪がどのように形成されてさらに強めていくかについて書いています。内藤氏は「マス・メディア」がセンセーショナルな話題を流して不安を煽り、そして問題を次々に作り出す過程があることを指摘します。しかしその問題はデータなどで裏付けられておらず、あくまで一方的な先入観や不安が憎悪を生み出してさらに自ずと強化されていきます。


三人目である著者の後藤氏は年齢が若くて、僕ともかなり近い年代です。その後藤氏はニート問題を取り巻く言説について詳しく検証していきます。彼はニートという問題は始めからそれまでの世代と違う若者にいら立つ大人がいることを示し、そこからニート状態におちいった若者を「自立できない若者」として扱う大人が様々な「マス・メディア」媒体でニートのイメージを拡散させていることを多くの資料から証明します。しかし一貫しているのは、ほとんどのメディアではニートという存在はネガティブであり、犯罪予備軍とすら捉えられる場合すらあります。これは内藤氏の議論ともかぶりますが、そのネガティブな先入観が最初から存在していたのです。


以上見てきたように、ニートといわれても実態は世間のイメージとはまったく違います。ニートといっても様々な状態があって、ニートが増加している!と一言で済むことはありえません。さらにニートが始めからネガティブな先入観と憎悪のメカニズムの中にあって、それを「マス・メディア」が拡散していくという構造が存在していました。本書が出版されてからすでに6年が経過していますが、ニート問題からさらに上位のレベルにある日本の労働問題そのものの欠陥が露呈してきている今、ニートアルバイターも狭き門に押し寄せる新卒も単なる精神論や教育論では解決できないのです。
今僕が社会問題で取り組んでいきたいのは、そのような労働問題の構造そのものの欠陥について考えていきたいですね。


「ニート」って言うな! (光文社新書)

「ニート」って言うな! (光文社新書)