ベーシック・インカム入門 無条件給付の基本所得を考える 山森亮

約2年前に書いた文章を晒すというのはどうにも気恥ずかしいですが、それでもこの文章は読まれる価値があるのではないかと思い公開します。今現在の僕はベーシックインカムの思想はここで書かれているより多少違う意見をもっていて、ここでの文章の熱さを失っている状態ですがw、その熱さを思い出すにも丁度いいかなと考えています。社会保障は勉強すればするほど根深いことがわかってくるのが苦しい所です。


ベーシック・インカムは、ここ最近急に注目されだしたトピックのひとつだ。このベーシック・インカムは最低限所得保障の一種としてしばしばあげられ、他の最低限所得保障には、負の所得税(本書でもとりあげられる)、参加所得、社会配当などがある。しかしベーシック・インカムではないものの、最低限所得保障の議論は200年以上前にさかのぼることができる。著者の山森氏はベーシック・インカムの運動を、最低限所得保障の歴史とからめて描き出す。


ウィキペディアベーシック・インカムにもくわしく書かれているが、あらためてベーシック・インカムの特徴と効果を書き出したい。山森氏はアイルランド政府が2002年に出した「ベーシック・インカム白書」をもとにして、概念を紹介する。

  1. 現物(サービスやクーポン)ではなく金銭で給付される。それゆえ、いつどのように使うかに制約は無い。
  2. 人生のある時点で一括で給付されるのではなく、毎月ないし毎週といった定期的な支払いの形をとる。
  3. 公的に管理される資源のなかから、国家または他の政治的共同体(地方自治体)によって支払われる。
  4. 世帯や世帯主にではなく、個々人に支払われる。
  5. 資力調査なしに支払われる。それゆえ一連の行政管理やそれに掛かる費用、現存する労働へのインセンティブを阻害する要因がなくなる。
  6. 稼働能力調査なしに支払われる。それゆえ雇用の柔軟性や個人の選択を最大化し、また社会的に有益でありながら低賃金の仕事に人々がつくインセンティブを高める・・・後略。 pp22-23


さらに予想されるベーシック・インカムの効果を以下にあげる。

  1. 現行制度ほど複雑ではなく、単純性が高い。行政にとっても利用者にとっても分かりやすい。資力調査や社会保険記録の管理といった、現存の行政手続きの多くは要らなくなる。
  2. 現存の税制や社会保障システムから生じる「貧困の罠」や「失業の罠」・・・が除去される。
  3. 自動的に支払われるので、給付から漏れるという問題や受給に当たって恥辱感(スティグマ)を感じるという問題がなくなる。ベーシック・インカム給付のために必要な増税は、ベーシック・インカムという形で市民に直接戻される。
  4. 家庭内で働いてはいるが、個人としての所得がない人々のような、支払い労働に従事していない人を含む全ての人に、独立した所得を与える。
  5. 生活保護のような)選別主義的なアプローチは相対的貧困を除去するのに失敗してきた。児童手当やベーシック・インカムのような普遍主義的なアプローチの方が効果的かもしれない。・・・後略 pp23-25


現在日本で給付される保証制度に生活保護があるけれど、日本は支給率が年々上昇傾向にあるにも関わらず、本当に必要な人たちにまだまだ給付されていないのだ*1。しかも生活保護は構造に致命的な欠陥をかかえている。


日本の生活保護は、各地方自治体によって給付されている。そして生活保護世帯の人たちは救済に値する基準を満たさないといけない。これには支給者たちによる恣意的な判断が介入してくる。実際地方自治体によっては、明らかに生活保護支給に値する世帯でも支給しないところが多々ある。


さらに労働についても疑問を投げかけている。現代社会では労働可能な人が賃金労働に従事していないことをもっとも蔑む。だけど、ナチスによる各地の強制収容所には、「労働は人を自由にする」と書かれていた。生活する上での労働と、強制労働に近い賃金労働には疑いなく差があると考えられる。特定の生産活動の必要性が、「賃金労働」一般の必要性へと至るのはなぜだろうか。
そして「働きたいけれども働けない人」を「働けない人」たちの中から選別するのは容易ではない。たとえば、ニート・ひきこもりの中には働けない人たちがいると考えられるが、これをどのように区別すればいいのか。区別する者の判断はどのように正当化されるべきか。


ベーシック・インカムを完全に生活の一部(生きる権利)として実施しようと山森氏はいう。上でみてきたように、だれにでも給付することには利点があると想像していい。ただベーシック・インカム負の所得税という理念はよくわかったのだけど、実際に施行できるかというと、どうもまだまだ詰めがあまいように感じてしまう。ベーシック・インカムと税制の話の前に、財源を問う議論は単なる恫喝と言い切るのはいかがなものだろうか。もちろん税とベーシック・インカムにも論考を与えているが、もっと前向きで実行力のある活発な議論が必要だ。


ベーシック・インカム入門 (光文社新書)

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