イノベーションとは何か  池田信夫

近頃ちょくちょく「イノベーション」なる言葉を耳にする方は多いのではないでしょうか。でもよくある「イノベーション」の日本語訳は「技術革新」とされ、なるほど「技術革新」こそ「イノベーション」であり我社も常に技術の発展に日々努力するぞ!!なんて雰囲気を味わっている方もいらっしゃるかもしれません。


しかし、実は「イノベーション」とは単純に「技術革新」を意味していなかったんです。「イノベーション」と言う言葉はシュンペーターというアメリカの経済学者が使い出した言葉ですが、彼がいうには「イノベーション」とは「新結合」と呼んでいました

  1. 新しい商品
  1. 新しい生産方法
  1. 新しい販路の開拓
  1. 原料の新しい供給源の獲得
  1. 新しい組織の実現 P.17-18


ここで製品開発を意味するのは1番だけで、技術を高めることが「イノベーション」であるとは言えないのです。池田氏

イノベーション」とは第一義的には経営革新なのである。p.18

と言います。どんなに素晴らしい技術でつくった製品でも、成功することはある。しかしそれでもマネジメントが稚拙だと成功する可能性は極端に悪くなる。むしろ凡庸な技術で作られた商品でも、マネジメント次第で市場に受け入れられて成功するかもしれない。「イノベーション」とは「技術革新」というより「科学的発見」と言葉に近いのだ。


この後池田氏は伝統的経済学と現在変わりつつある経済学の話をしていきます。今までの経済学では、人間は財から得られる「効用」を最大化する計算を行いながら生きていると考えられてきました。しかし、カーネマン・トベルスキーが消費行動の実験から得た結論は、人間は参照点(reference point)からプラスとマイナスかに反応しているというのです。このような参照点にしている基準(フレーム)が、私たちの意思決定に大きく影響を及ぼす現象をフレーミングといいます。
※このフレーミングとは行動経済学の言葉ですが、認知科学のフレームの概念とも接近しており、認知言語学のメタファー論なども含めた「認知論的転回」(Lakoff)というような見方もあり、池田氏はこのフレーム、及びフレーミングの定義を幅広く使っています。


ここで池田氏が意思決定のモデルとして出してくるのが、カーネマンの「意思決定の2段階モデル」です。

人間は感覚器官から入力された情報の中からまずシステム1でフレームを設定して情報を選び、その中でシステム2によって推論する。システム1は直感的で、連想によって自動的に機能するが、学習は遅い。これに対してシステム2は論理的で、ルールによって思考するため柔軟である。 p.25-26

今までの新古典派経済学はシステム2の状況ばかり考えていて、システム1に対する現象に経済学が対応していなかったことに池田氏は批判します。しかしことはそう単純でもなく、このシステム1とシステム2は、実際の脳の中では図のようにきれいに分けられてなく、関係はかなりゆるやかなのだそうです。この脳が曲者であり、様々な物語を自然に作ったり、心理学も最近は脳や脳のもたらす行動、さらに社会的心理についての実験を繰り返しています。そしてこの脳の構造の作りが少し違う「変人」が「イノベーション」を作るのではないか・・・と池田氏が考えているように見えます。


この後は「イノベーション」が成功したケーススタディや、反対に「イノベーション」が絶対に失敗する法則などを描いていきます。特に電機産業と情報技術の歴史の成功と失敗についての事例が多く語られています。知っている方は飛ばしてもいいですが、知らない方は読んでおいても損はないと思います。


イノベーションとは何か

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