フランス革命についての省察 ほか エドマンド・バーク 水田洋・水田珠枝 訳

エドマンド・バークは、保守主義の父として有名な政治家であり、政治哲学者だった。しかし、ウィキにもある通りかなり誤解されやすい人物で、彼の思想はしばしば攻撃された。彼の保守思想の本質は、ただ現体制の擁護だけじゃなくて、社会や政治は均衡した自然状況でないと改革も前進も不可能だとみたことだ。


本書の訳は、amazonの書評にある通りしばしば文脈がわからないところがある。これは訳が悪いと言うよりは、バークの英語が悪いのだと思う。英語の原典で読む限り、これを訳するのはメンドイだろうな〜と感じるからだ。それでもなんとか読みきったので、自分で理解した限りのことを書いてみたい。


まずはバークのフランス革命に対する基本的な態度を紹介することから始めよう。バークはフランス革命をおこした人たちにこう宣言する。

あなたの国のすべての詭弁家は、われわれがたどってきた行程以上に、理性的で男らしい自由を維持するに適したものを提供することができない。われわれは、われわれの思弁よりもむしろ自然を、工夫よりもむしろ気持を、自分たちの権利と特権の偉大な保管所および倉庫としてえらんだのである。 1. p62-63


バークは明らかにフランス革命とその担い手たちに拒絶の反応をしめす。革命により国民議会の権利が王権を超越したフランスよりも、イギリスの現体制の方が自由であると言うのだ。

王と上院議員は、各地方・各州・各都市間の平等性の、個別的および連帯的な保証である。 2. p83

もし、市民社会が慣習的とりきめの所産であるならば、その慣習的とりきめとは、それの法律であるにちがいない。その慣習的とりきめは、そのもとで形成されるあらゆる種類の国家構造を、限定し規制するものであるにちがいない。あらゆる種類の立法・司法・行政の権力は、その被造物である。 1. p108

なんであれ国家において最高のものは、その司法的権威を、自己に依存させないだけではなく、できるだけ多くなんらかのやりかたで自己と均衡するように構成して、持たさなければならない。それは、その権力に対抗して、その正義に、保証をあたえなければならない。それは、その司法部を、いわば国家の外にあるもののようにしなければならない。 2. p123

バークは王の地位を積極的に肯定する。なぜなら王という下においてこそ政治も社会も安定するというのだ。さらに王の下に貴族、その下には一般市民がいて、彼らで市民社会を構成する。それでは王は絶対権力として君臨するのだろうか?もちろん違う。王は法律の下に縛られるのだ。そしてその法律は市民社会においての慣習の産物として成立するというのがバークの主張したいことだ。この慣習法の概念はイギリスならではのものだけれど、市民が決めた法律=縛るものの枠内で、市民は自由を手にする。


このようにバークの考える自由は、フランス革命の担い手たちが宣言したようななにごとにも縛られることのない自由ではなく、あらかじめ制限された中での自由だ。日本では自由という言葉は、なにをしてもいいことだと想起させがちだけど、西洋において自由の意味は人によってかなり変わる概念なのだ。今ヨーロッパで完全な自由をさけぶ人は少ないが、バークにおいての自由はイギリスの伝統をかなり強く受け継いでいる。そしてこの時代の人らしく、キリスト教の普遍さに疑いをもたない。


次にフランス革命政府に対する分析を引用して、バークの慧眼さをたたえたい。

第一は、強制的な紙幣をともなう没収であり、第二は、パリ市の最高権力であり、第三は、国家の正規軍である。 2. p87-88

ある種の権威の弱体化とあらゆる権威の動揺のとのなかで、軍隊の将校たちは、兵士をなだめる技術を理解し、真の指揮精神をもつ、ある人気のある将軍が、すべての人の目を自己に集めるようになるまでは、しばらくのあいだ反乱的であり、党派性にみちている。 2. p145


最初の引用は、どのような手段で革命政府が秩序を維持しているかを説明している。財源を確保するために、教会などから没収した財産を担保にアシニア紙幣という通貨を発行するのだけど、その財源が不確かなままに実行する。しかも紙幣は不兌換紙幣なのだ。そしてフランスはパリ市を中心に回っている。この状況をしっかりと確保するには軍隊の力が不可欠になる。だが軍隊を維持する規律が悪くなってきている。


ふたつ目の引用では、その後状況がどのように変化するかを予言している。ここで述べられている将軍の名をわたしたちは知っている。どんなに崇高な精神を歌いあげたとしても、この一つの摂理からは逃れられない。これは政治的混乱が収束する過程と結果は、だいたい同じようになることを示唆しているのだ。



これで「フランス革命についての省察」の解説は終わりだけど、最後に付け加えたいことがある。バーク思想の本質にふれるには、「フランス革命〜」より、本書の最後にある「自然社会の擁護」に多くの示唆が含まれているということだ。松岡正剛氏のバーク解説にあるように、バークの思想は若い頃から水々しいかがやきを放っていて、この「自然社会の擁護」にもバーク思想の核が潜んでいる。バークという思想家をより理解したい方には、ぜひ読んでみてほしい。

フランス革命についての省察ほか〈1〉 (中公クラシックス)

フランス革命についての省察ほか〈1〉 (中公クラシックス)

フランス革命についての省察ほか〈2〉 (中公クラシックス)

フランス革命についての省察ほか〈2〉 (中公クラシックス)

※実は上の本は誤訳があるみたいです。なのでこちらの方がいいかもしれません。

フランス革命の省察

フランス革命の省察