これが応用哲学だ!  出口康夫 美濃正 戸田山和久

哲学と聞くとなにやら難しそうな気がして取っ付きにくいような印象をもつ人は多いでしょうか。それともあんな学問なんの役にも立たないただの言葉遊びや思考実験だと感じる方のほうが多いのでしょうか。今回紹介する「応用哲学」は今まで哲学と呼ばれていた枠から飛び出して、いままで誰も踏み込まなかった分野に挑戦していこうというとても意欲的な本です。本書は主に二つに分かれていて、いろんな分野から論文形式のマニフェストと「応用哲学」学会の成立に直接関わった人たちの座談会を収録しています。


まず目次ですがこれは以下のようになっています。

1,宣言する!  応用哲学とは何か

2.提案する!  応用哲学への期待

3.実践する!  応用哲学の挑戦

4.横断する!  テツガクとブンガクと

5.交流する!  応哲(オウテツ)、東アジアへ

6.座談会  ポスト3.11の応用哲学


この内1〜5はマニフェストを書いた人の興味のまま書き殴っているというと聞こえは悪いかもしれません(笑)。しかしマニフェストを読んでいくと、本書のメインとなっているテーマは分析哲学・科学哲学・哲学と、実際のテクノロジーに関わる技術者や物理学者など理系との認識のズレを意識して書かれているものが多いことに気づきます。これは狭すぎる解釈かもしれませんが、哲学や倫理学を拡張して科学やいろんな現実の問題を解決していこうというのではなく、それら他分野に渡る垣根をこえてコミュニケーションをするためのツールとしての応用哲学を志しているように見えます。その中には今までの哲学の概念もそのコミュニケーションに応用することも含みます。


しかしこのブログではしばしば哲学の本を取り上げていますが、哲学ははっきりいって今すぐに使える学問としては存在していません。だからといって何の役にも立っていないにもたっていないと問われればそれも違います。座談会でこんな興味深い発言を見つけました。

四月に新入生のオリエンテーションをやると必ず、「哲学って何の役に立つんですか」って風に聞かれるんだけれど、僕はいつも答えているのは、「役に立つ」とはどういうことなのかをきちんと考えるのが哲学の役目で、今は「役に立つ」ということは何か価値があるように見えているけど、ギリシャ時代は「役に立つ」ってことは軽蔑されていた、と。ユークリッドは「定理は何の役に立つんですか」と聞いた若者に向かって小銭を投げて追い返した。今我々が自明と思っている価値、あるいは概念があって、でもそれが自明化するにはそれなりの歴史的な経緯がある訳で、そういうことをきちんと掘り起こして、自明性をもういっぺん問い直すというのが哲学の役目のはずです。 p.260


こういう考えを繰り返すことが哲学というならば、哲学ということは特別な存在ではなく考えることを常に問い直すことにあります。そして問い直したことを実践することにこそ、本書の「応用哲学」が受けて立つフィールドになるのではないでしょうか。


最後になりますが、献本をしてくださった「本が好き!」様と出版社である大隈書店様にお礼を申し上げます。大隈書店様はまだまだ創業して新しく、本を献本するだけでもコストがかかっていると思いますがこれからも良い本を制作して下さい。本を受け取った人間として陰ながら応援します。


これが応用哲学だ!

これが応用哲学だ!