知的生産の技術  梅棹忠夫

前回考えるための方法として「思考の整理学」を紹介しましたが、この「知的生産の技術」はさらに以前に書かれた創造的な知的生産を行うための本です。
僕の知る限り、この「知的生産の技術」と川喜田二郎の「発想法」が戦後に書かれた知的生産のための方法をしては、ごく初期に書かれた本だと思います。「思考の整理学」は広範囲にわたって考えると、思いつくこと、ノートの作り方、整理法、議論、知的活動を描いていて、その方法にはいくつも脱帽したところが多かった。今回の「知的生産の技術」は、具体的な記録の作成の仕方、記録の整理の仕方、そして何より京大式カードと呼ばれるカードを生み出したことで有名だ。さらに著者の梅棹さんは、ひらがなのタイプライターを使い出した始めのひとりでもある。


本書は記録をするためのノートに代わってカードを使い情報を整理する方法がいかに便利か力説している。B6判サイズのカードにひとつの情報を書き入れ、記録する。たったこれだけのシンプルな方法だが、非常に管理しやすいのだと梅棹さんは言う。このカードを如何にいかせるかで情報の取扱がまったく変わると言うが、今から読むとこのやりかたには向き不向きがあるように思い、誰にでも勧める方法ではないだろう。しかし本書の読みどころはそこだけではない。梅棹さんはカードの活用をコンピューターとの共通点で語っているのだ。


梅棹さんはタイプライターがもっと便利になるようになれば、もっと情報を取り扱うのが楽になるだろうと予言していたのだ!現在タイプライターは完全にパソコンで代用できるようになっているどころか、スマートフォンなどを活用すればあらゆるものが情報化できる世界になっている。今の時代では単純にカードだけで分類するよりも、コンピューターや情報機器を生かして自らの知的生産の方法を作るのがもっとも合理的だろう。


もしかすると本書を読んだ人の中では、本書の具体的な意味が京大式カード作成法以外無くなってしまっているかもしれないが、梅棹さんは知的生産ということに対して貪欲に取り組んでいたことを忘れてはいけない。前回の「思考の整理学」でも言ったように、大事なのはどのように情報を取り組むかだということなのだ。最後に「知的生産の技術」でもっとも気になった文章を引用して、今回の締めくくりにしたい。

「頭のなかに記憶するなら、カードにかく必要はない。カードにかくのは、そのことをわすれるためである。」p.54

みなさんは、覚えるためだけのために記録していませんか?


知的生産の技術 (岩波新書)

知的生産の技術 (岩波新書)