つぎはぎだらけの脳と心  デイビット・J・リンデン  夏目大 訳

脳はアイスクリームコーンの上にアイスを載せるように進化してきた・・・。この例えにはいささか面を食らう方も多いと思いますが、読み進めていくうちにそのたとえ通りに脳って発達してきたことに納得できるでしょう。


私たちの脳を構成している「ニューロン」は電気信号の伝達と、「グリア細胞」はニューロンが働きやすいように環境を整える作用でできています。「ニューロン」は生物学上それほど特別な存在ではなく、約6億年前の生物からあったと言われているのだからおどろかされます。この「ニューロン」はどれも細胞膜の中に細胞体と細胞核も持っている。「ニューロン」の細胞体からは「樹状突起」と呼ばれる細長い芽のようなものがのびていて、これが隣り合う「ニューロン」から送られてくる信号(化学物質)を受け取る。
しかし「ニューロン」には「軸索」と呼ばれる細胞体から1本だけ伸びている器官が「樹状突起」へ信号を渡すけど、この「軸索」と「樹状突起」の接点を「シナプス」と読んでいて、その間合いは少し離れている。この「シナプス」でのやり取りこそ、私たちの脳のネットワークを創っているです。しかしニューロンの伝達速度はコンピューターの100万分の1にすぎず、またパソコンが一秒間に100億の演算が行われるのに対して、脳は1秒間に400回ほど(1200回する部分もある)スパイクが発生するのにすぎません。私たちの脳は非効率な旧式な部品でできているのです。


人間の脳は突然今のようなかたちになったのではなく、かつてカエルの時にあった脳、ネズミの時にあった脳がいまだに人間の奥の方に位置しています。そしてそれらの時に作られた脳のスイッチが実は常に「オン」の状態で、その制約から脳を作っていかざるを得なかった。現在人間が人間らしい脳と言えるのは認知能力が他の生物より優れていることであり、その能力を司っているのは連合皮質という部分にあります。詳しくは本書を読んでいただきたいですが、脳の「ニューロン」形成は遺伝子で完全に決められるのではなく、その後の環境も「ニューロン」と「シナプス」の関係に重大な影響を与え続けているのです。


さらに脳と宗教はとても興味あるトピックで、本書では「自分で意識しているか否かにかかわらず、人間が、宗教的観念を抱きやすいのは、左脳の物語作成機能が常にオンになっているため、というのが私の意見だ」p.301、「物語を作る機能のはたらきは無意識のものだが、結果としてできる物語は意識にのぼる」p.303、「どうも人間とは、生まれつき、正しいと証明できないことを信じるようにできているようにできているらしい。少なくとも、非常にそうなりやすい傾向があるようだ」p.304などの箇所は見事な表現だと思いました。ただ宗教の発生や宗教の信仰を議論するならばおそらく脳科学だけでは不十分で、社会学や人類学のアプローチも必要なのでしょう。


純科学的な表現の多い箇所は、科学表現になれていないと読みづらく、なれていない僕も読み進めるのが辛いことが何度かありました。しかしそれを含めても本書はリンデン教授の脳科学に対する説明がシンプルに書かれていて、なんとか最後まで読み切ることができました。脳についての入門書からいきなり本書にくると苦労するのですが、本格的な脳の本に挑戦したい方にはオススメしたい本です。


つぎはぎだらけの脳と心―脳の進化は、いかに愛、記憶、夢、神をもたらしたのか?

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